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登園基準の考え方

[2024.04.05]

4月。新年度になりました。新たに保育園に通い始める方も多いのではないでしょうか。

初めての集団生活になるお子さんは、まず間違いなくかぜをもらいます。これを専門用語で「保育園の洗礼」と言います(なんちゃって)

かぜについては、昨年のブログ記事で紹介しています。かぜ薬の効かなさについても書いてます。

 

今回は、体調を崩した場合、いつになったら登園してよいかという「登園基準」についてです。

 

小児科医が言う「登園していいよ」は「人にはうつさない」とは限らない!

いきなり問題発言ですが、我々が「登園していいよ」という場合、「人にはうつさない」ではなく「こんくらいならうつっても問題ないっしょ」という判断の場合があります。

 

なんと不謹慎な! と怒られそうですが、どういう考え方をしているのか説明します。

 

こどもにとって、登園=通常の社会生活なので、感染リスクと通常の社会生活が制限されるリスクをてんびんにかけます。

この考え方、コロナ禍でなじみ深くなったと思います。出勤しない、会食しない、帰省しない、など感染対策と称していろいろ社会生活が制限されたと思います。人にうつさないもっとも確実な方法は「家から一歩も出ない」に尽きるので、人にうつさないことだけを目標にするなら、人にうつす可能性があるうちは家にいればよいということになります。

 

でも、これを実現しようとすると、コロナで10日間、かぜや胃腸炎では3週間は休まなくてはならなくなります。こどもは平均でも年6~8回かぜをひくので、ほとんど登園できなくなってしまいます。それでは社会生活が立ち行かなくなってしまう。

 

そこで、両者がちょうどいい塩梅になる「落としどころ」を探っていく必要があるのです。

 


医療で大切な「グレーゾーン」の考え方

医療の世界では、白黒はっきりつくことは非常にまれです。(以前インフルエンザの抗原検査が「陰性」でも実はインフルエンザの確率が90%→82%に減るだけ、みたいな話をしました)

 

常にメリットとデメリットをてんびんにかけ、この子にとっての最善はなんだろう、、とウンウン考えるのが小児科クリニック診療みたいなところがあります。やるべきか、やらざるべきか。有効か、無効か。現実は常に白と黒の間に横たわる切れ目のないグラデーションの中にあります。

 

「登園」にまつわるメリットは、当然こどもの社会生活です。さらには親の仕事。このメリットは各家庭の価値基準や状況によって大きく変動するので、杓子定規には決められません。

 

一方デメリットは当然「人にうつす可能性」そして「本人がしんどい、重症化する可能性」です。後者の本人の現在の状態、重症化の可能性については、診察・診断で比較的明瞭に予測できるので、ダメだと思ったらドクターストップをかけます。あるいはどのような経過だと危ないのかを説明します。

 

難しいのは「人にうつす可能性」の方です。前述のように、こどもの社会生活のためにある程度まわりに感染させるリスクを看過しなくてはならないので、そのリスクを見積もる必要があります。

 

比較的リスクが高いとされている感染症についてはたいてい学校保健法による取り決めがあります。例えばインフルエンザは発症から5日間経過しかつ解熱後3日間は休むとか、アデノの咽頭結膜熱(プール熱)は症状がなくなってから2日間は休むとか、水ぼうそうは発疹が全てかさぶたになるまで休むとか、おたふくは耳下腺が腫れてから5日間経過しかつ元気になるまでは休むとか、、、。これらについては取り決めを守っていればそこまで問題はありません。(たまに水ぼうそうの診断で登園停止になってる子が公園で遊んでいたりお買い物にきたりしているのをみかけますが、まわりにうつすのでやめましょう。)

 

普通のかぜの場合はどうでしょうか。かぜは感染症なので人にうつします。咳鼻だけで元気、という子は登園してもいいけど、実は元気で活発なだけにまわりにうつすリスクは大です。でもうつった子も「咳鼻くらいで元気」程度で済むなら、そこまで問題にはなりません。「ただのかぜだからうつさない(だから登園可能)」ではなく、「ただのかぜだからうつってもそこまで問題なし(だから登園可能)」という考えです。

 

やっかいなのはこれからのシーズンで流行り始める「RSウイルス」とか「ヒトメタニューモウイルス」です。これらのウイルスは大人や年長児だと軽いかぜで済むけど、赤ちゃんがかかると重症化しやすいことで有名です。だから、登園する本人が「咳鼻くらいで元気」でも、うつされた相手は「重症化して入院」になる可能性が少なくありません。こういう場合は軽くても症状があるなら休ませるべきです。

 

このように同じ症状であっても、通っている保育園にいる人の年齢や基礎疾患、流行っている病原体、などに鑑みて、登園基準を調整する必要があるのです。

 

これからの季節、初めて登園し始める赤ちゃんのいる保育園に通っていて、世間でRSウイルスが流行しているのなら、年長児ほど軽症でも休ませることが大切です。RSウイルス、特効薬がないので、重症化すると本当に大変です。基礎疾患のない子でもICUで人工呼吸器管理が必要になったりもします。うつした側はただのかぜ症状にもかかわらず、です。

 

というわけで外来では、同じ診断・症状なのに、時によって登園していいよって言ったりやめたほうがいいよって言ったりいろいろ変動することがあります。毎回言うことが変わって芯がないなあと思われるかもしれませんが、上記のようなことをあれこれ考えています。腑に落ちなければ詳しく説明しますので、ぜひ質問してみてくださいね。

 

 

さていかがでしょうか。登園基準が意外とクリアではない流動的なものだということがご理解いただけますでしょうか。

念のために付け加えると、〇〇検査が陰性だったので登園可、みたいな判断は多くの場合でナンセンスなのでご注意ください。

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