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保育園の洗礼~かぜについて

[2023.04.14]

4月になって、新しく保育園に入園した子が洗礼を受ける季節になりました。

それまで自宅で過ごしていた子がたくさんの人と接するようになると、びっくりするくらいかぜをひくようになります。

何度もかぜをひいて結局4月はほとんど登園できていません! なんてことも珍しくないくらいです。

 

さてこの「洗礼」とどう向き合えばよいでしょうか。

 

「かぜ」とは

まずはかぜとはなんなのか、をお話しします。

明確な医学的定義があるわけではありませんが、軽症のウイルス性上気道感染のことをかぜと呼ぶことが多いです。かぜは感染症なんですね。

 

その典型的な経過は、

①鼻から入ったウイルスが鼻炎を起こし、透明な鼻水が出たり鼻づまりを起こします。

②炎症が強ければ、発熱、頭痛、倦怠感など全身の症状が出てきます。保育園から電話がきます。

③のどの奥まで炎症が及ぶと、乾いた咳が出てきます。

④ウイルスと戦う白血球が増えてくると、だんだん鼻水が黄色~緑になり痰も増えて痰がらみの咳が出てきます。夜が特にひどくて眠れない!

⑤ウイルスをやっつけたあとも気道粘膜修復まで時間がかかることがあり、咳のみがしつこく何週間も続くことがあります。そうこうしているうちに新しいかぜをもらい、①に戻る。

 

さらに、鼻と目、鼻と耳はつながっているので、急性結膜炎(目やにや充血)や中耳炎を合併することもあります。

 

症状がどれくらいの期間続くかはその時々で変わりますが、多くは自分の免疫でやっつけてくれるので自然に治ります。

 

「かぜ薬」とは

かぜをひいたらお薬を飲んで治す、というのは、ある意味常識として体に刷り込まれていることかもしれません。しかし一方で、かぜを治す薬はない、という話を耳にしたことがあるかもしれません。

 

実は現状、「かぜの治癒を早める薬」「かぜの悪化を抑える薬」は存在しません。そのため「早く治したい」とか「悪くなる前に」という早めのパブ〇ン的なお薬の使い方は基本的には意味がありません。

 

鼻水を出しやすくする薬、鼻炎を抑える薬、咳を抑える薬、気管支を広げる薬、などの症状を和らげる薬やバイ菌をやっつける抗菌薬は存在しますが、これらもメリットとデメリットをてんびんにかけるとそこまで有用とはいえず、全員が全員使うことを推奨するものではありません。

かぜ薬についてはこちらの記事(かぜに効かない「かぜ薬」)もご覧ください。

 

お薬で改善する手ごたえを感じるなら使っていいとは思いますが、大して効いていないのに症状がなくなるまでお薬を使おうと思うと、結果的に何か月間も薬を続けなければならないことがあるので注意が必要です。

 

個人個人の体質や症状、身体所見によって使い分ける漢方薬を上手に使えば、治癒を早めたり重症化を予防できる可能性はありますが、ご存じのように漢方薬は苦いので、飲ませるのも一苦労です。

 

結局のところ、かぜは自分の免疫で治るのを待つのが最善、という判断になることが多いのが歯がゆいですが現実です。

 

小児科でできること

かぜの中には、自分の免疫で倒しきれなくて重症化してしまったり、治療が必要な病態(細菌性肺炎、喘息、尿路感染など)が混ざっていることがあります。これらを見極めるのが、小児科医の一つの役目だと思います。ただ治るのを待てばよいのか、積極的に治療するべきなのか、その判断ができるのが小児科医です。

 

さらには、お薬を飲ませる以外に家庭でどのようなことに気を付ければよいか、つらい症状を和らげるためにできることはなにか、今後どんな経過が予想されどうなったら受診するべきか、などのお話しがきけます。

 

受診するタイミングは?

はじめのうちは、軽い症状でも不安があればいつでも受診して良いと思います。疑問や不安はじっくり納得いくまで質問してください。

 

慣れてくると、これくらいなら自然に治るだろう、という判断ができるようになってくると思います。「さすがにこれは辛そう」「もしかしたらただの風邪じゃないかも」と思った時が受診のタイミングです。「いつもの軽い風邪」なら、温かくして栄養と休息をとれば十分です。

 

漫然と「ちょっと症状があるのでお薬ください」で受診するのはあまりおすすめしません。

 

登園基準について

これは僕の個人的意見ですが、登園している目的が「パパやママのお仕事のために預ける必要があるから」であれば、少しでも症状があるならおじいちゃんおばあちゃんに預けるなどして可能な限りお休みさせるべきです。軽症でもかぜは感染症なので、うつります。

ただ、こどもがある程度大きく、「社会経験としての登園」であれば、少しの症状で休ませることは、貴重な経験の機会が失われるデメリットの方が大きいと考えるので、えいっと登園するのもありだと思います。

 

これは人にうつすリスク、人からもらうリスクをどれくらい許容するかという価値観の問題もあるので、家庭それぞれの判断があるところです。

 

なお、明らかに登園したら本人が危ない場合や、法律で登園禁止されているような疾患の場合は、もちろんこちらからドクターストップをかけます。

 

 

入園して、何度も何度もかぜをひいて、何カ月も症状が良くなったり悪くなったりを繰り返していると、この子は何か悪い基礎疾患があるんじゃないか、このまま治らないんじゃないかと不安になることもあると思います。しかし、ほとんどのこどもは数年間の経過で免疫を獲得し、かぜをひきにくくなります。今はそのためのカラダのパワーアップの期間なのだと見方を変えることも重要です。

 

こどもにとっては案外、無理やりおいしくない薬を飲まされたり、何軒も小児科を連れまわされたりすることよりも、パパやママが優しく看病してくれることの方が大切な医療だったりするかもしれません。

 

小児科医としては、そのお手伝いをする役目が担えたらと思うばかりです。

 

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