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インフルエンザ抗原検査の落とし穴

[2024.02.16]

年が明けて、B型インフルエンザが流行しております。1月下旬から次々と学級閉鎖しているというのに、なかなかピークアウトしないですね。

 

わが子が発熱したり、かぜ症状が出てきたとき、「これってインフル? 学校行って大丈夫?」という心配が絶えないと思います。病院を受診して白黒はっきりつけたいところです。

 

で、検査を受けるわけですが、このインフルエンザ抗原迅速検査というやつ、実はかなりやっかいです。

 

 

「発症してすぐは陽性にならない」の落とし穴

熱が出てすぐに受診して、「発症して12時間くらい経過しないと検査が陽性になりにくいから、今検査して陰性だとしても、インフルエンザじゃないとは言えないですよ?」と説明されたことがある人も少なくないはず。(僕自身もそのように説明することもあります)

 

が、ここでふと疑問がよぎるわけです。「発症して12時間以上経ってれば、検査は陽性になるのか?」

 

答えはノーです。

 

実は、発症して12時間以上たっても、陽性になりにくいことに変わりはないのです。

 

2021年の感染症学会誌の投稿で、インフルエンザの時間経過と抗原検査の感度・特異度をリサーチした文献がありますが、これによれば、発症からの時間経過と検査の感度・特異度は以下のように変遷します。

 

 

確かに時間とともに感度は上昇するけれど、検査精度として十分と言えるほどには高くはなりません。

 

※「感度」とはインフルエンザに感染している人が検査を受けて陽性になる確率。「特異度」とはインフルエンザに感染していない人が検査を受けて陰性になる確率のことです。

 

感度が低いということは「インフルエンザに感染している人でも検査陰性になる確率が高い」ということです。

 

逆に特異度100%はすごいです。インフルエンザに感染していなければ100%陰性になるということなので、言い換えると「検査陽性であれば絶対にインフルエンザに感染している」ということになります。

 

この感度・特異度の数値は、報告によってばらつきはあるものの、だいたい似たような値になるようです。

 

 

実際の診断のプロセス

我々医師は問診や身体診察を行い、患者さんがどのくらいインフルエンザらしいかを推測します。これを「検査前確率」といいます。これに検査の感度・特異度を加味して、最終的な「検査後確率」を算出し診断をくだします。

 

たとえば家族でインフルエンザの人がいて、その2日後に発熱、ふしぶしの痛みが出現し、のどを見ると典型的な赤さ。みたいな人は検査する前から9割方インフルエンザといえるでしょう。検査前確率は90%と見積もれます。

 

この人に検査をして、陰性だった場合、検査後確率はどうなるでしょうか。発症からの時間ごとに計算してみると、、、

 

 

こんな感じになります。

発症12時間以内の検査が陰性だった場合は、82%の確率でインフル、発症12時間以降の検査が陰性だった場合は、78%の確率でインフル、ということになります。検査前確率の90%よりは確かに減ってる。減ってるけども、、、という感じです。

 

つまり、検査陰性が意味するのは「インフルエンザじゃないですね」ではなく、「9割方インフルと思っていたけど、8割くらいに減りました」というわけです。

 

そして残念ながら12時間以上待ったところで、検査後確率は4%くらいしか変わらないのです。

 

インフルエンザがかなり怪しい人がインフルエンザでないことを証明するような力は、抗原検査にはないのです。

 

この結果をひっさげて「検査陰性でした!」といって登校すれば、蔓延するのは当たり前です。
しかも、検査陰性だからとインフルの診断をしなければ、タミフルなどの抗インフルエンザ薬も使えないので、つらい期間は長引きます。欠席もついてしまいます。

 

であれば、インフルの可能性が高い人は、12時間以上待って検査などせず、臨床診断でさっさと治療したほうが、本人も周りもハッピーではないでしょうか。(抗インフルエンザ薬は発症から時間が経たないうちに使った方が効果が期待できます)

 

診察の時点で9割方インフルの人には、検査せずに臨床診断で治療にすすむのもありだと思います。ただしこの場合、1割くらいはインフルではない可能性が残るため、経過が悪ければ再度受診して原因を精査する必要があることには注意です。

 

 

検査が有効なのはどういうケースか?

症状はあるけれど、あんまりインフルエンザっぽくはない場合、あるいは五分五分くらいの場合です。

 

検査陰性ならもともと高くない検査前確率がさらにちょっと少なくなるだけなのに対して、陽性であれば確定なので、結果によって治療方針が大きく変わります。こういう場合は検査の意義が大きいと思います。

 

 

抗原検査の正しい解釈

細かいことを抜きにしてざっくりといえば、インフルエンザの抗原検査の解釈はこんな感じです。


「陽性なら確定診断」
「陰性なら検査してないのと同じ」
「時間が経ってもそれはたいして変わらない」

 

インフルエンザ抗原検査は、確定診断をつけるための検査としては優れているけれど、出勤や登校、登園のための「陰性確認」検査としてはザルのような検査、ということです。

 

重要なのは「インフルエンザではないこと」は検査では証明できない、ということです。なので、本当は流行期に症状があった場合は、検査の結果によらず、最低5日間くらいはがっちりと感染対策をとることが望ましいです。

 

検査が完全ではない以上、我々医師は検査前の診察の段階で正確な見立てを立てられるように、そしてそれをわかりやすく伝えられるように努力しなければいけないということですね。

 

そしてみなさま、出席停止期間だけでなく、症状のあるうちは、無理せずお休みするか、マスクなどの感染対策をご検討ください。

 

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