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ステロイド軟膏と聞くと身構えてしまう方へ

[2023.06.16]

外来で質問が多いシリーズ!

「赤ちゃんにステロイド軟膏を塗って大丈夫ですか?」

これは非常に多く聞かれます。

 

ステロイドと言えば、巷では「お茶に混ぜて飲むと花粉症が治る」とか、「怪力を得る代わりに老化が進む」とか、インパクトのある効能がまことしやかに噂されており、同時に「なんか怖い」というふわっとしたイメージがありますよね。(上記効能は冗談ですよ。念のため、、、)

 

ステロイドは、たしかに副作用に注意が必要な薬の代表といえます。

 

とはいえ一言でステロイドと言っても、その種類はいろいろだし、投与方法も点眼、吸入、内服、注射など多岐にわたります。使い方も少量を長く使う場合や、短期間に大量投与する場合など様々です。それぞれに注意すべき副作用も異なってきます。

 

これらをひっくるめて「ステロイド怖い」に変換するのはさすがに乱暴です。ステロイド軟膏は正しく使えば非常に有効なことが多いので、ステロイドと名のつくものは全部怖いんだぞとあおってくる本とかSNSを妄信するのは、患者さんの不利益になる可能性が高いです。気を付けましょう。

 

(世の中には「ステロイドが入っていない」ことをうたい文句にする軟膏なんかも売られており、まるでステロイドが悪いものかのような表現で不安をあおるのはホントやめてほしいです。)

 

以下、ステロイド軟膏(塗り薬)に絞ってお話しをしていきます。


ステロイド軟膏の「強さ」

ご存じの方も多いかと思いますが、ステロイド軟膏には「強さ」があります。国によって分類は違いますが、日本では、最強の「Ⅰ群」から最弱の「Ⅴ群」の5種類に分類されています。当院でよく出すお薬の大体の強さはこんな感じです。

 

Ⅰ群:デルモベート
Ⅱ群:マイザー
Ⅲ群:リンデロンV、ベトノバールG
Ⅳ群:アルメタ
Ⅴ群:リンデロンA

 

当然ながら強い軟膏の方が、副作用は出やすいです。ちなみにワセリン等を混ぜてもステロイドの「強さ」は変わりません。ムラができるだけで。


添付文書をみてみよう!

実際どのような副作用が予想されるのでしょうか。添付文書の注意書きをみると「小児への長期・大量使用または密閉法により発育障害を来すおそれがある」といきなり超怖いことが書いてあります。

この情報は、8歳の女の子にⅡ群相当のステロイド軟膏を過剰な量使用したところ、クッシング症候群と骨粗しょう症をおこしたが、中止することで改善した、という症例報告が根拠になっています。

 

ステロイドは体の中で作られるホルモンの一種なので、過剰に体内に入り込めばホルモン過剰のような状態になります。このホルモン過剰で起きるいろいろな症状をまとめてクッシング症候群といいます。

 

体外からホルモンを入れるので、体が作っているホルモン産生が抑制される「副腎抑制」という副作用もありあす。どのくらい使用すると副腎抑制が出てくるかというと、成人ではⅡ群(マイザー)を1日2本を3か月間塗った場合や、Ⅲ群(リンデロンV)を1日4本塗り続けた場合などに報告されています。小児では、Ⅳ群(アルメタ)やⅢ群(リンデロンV)を4週間以上使い続けた場合2-3%で起きるという報告があります。

 

強い軟膏を大量に使い続けるのは確かに注意が必要です。なので、強いステロイドを使う場合は、使用計画をきちんと立てて、定期的に医療機関に通って診察を受けることがとても重要です。添付文書の症例報告でも中止で改善していることから、使うこと自体が危ないというよりは、やめるべきときをきちんと判断することが重要といえます。かゆいときだけ使って、良くなったらすぐやめて、またかゆくなったら使って、、、という使い方は結果的にステロイド使用量が増えるためおすすめしません。

 

乳児湿疹に対してアルメタを使用するくらいなら、上記の副作用はそんなに気にしなくても大丈夫です。

 


他の副作用

他には、大きく分類すると「感染症」「緑内障」「皮膚の病変」の3種類の副作用があります。

 

感染症

ステロイド軟膏は炎症を抑える薬なので、ばい菌に対する免疫反応(≒炎症)も抑制していまいます。そのため、使い続けると感染症を起こすことがあります。小児でよくあるのは、おむつかぶれにステロイドを塗り続けるとカンジダなどの真菌がついてしまう、というやつです。あとは喘息治療のステロイド吸入後にうがいしないとやはり真菌がつくことがあります。

 

感染症が特に問題になるのは、内服や点滴など直接体内にステロイドを入れる治療を長期間行う必要がある場合です。この場合は様々な感染症にかかりやすくなるので、注意が必要です。コロナの「重症化リスク」としても挙げられていますね。

 

緑内障

まぶたへの塗布で、緑内障(眼圧が上がる病気)をきたすことがあります。小児科から処方する際は最も弱いⅤ群(リンデロンA)を使いますが、長期に使う場合や、ステロイド点眼(花粉症等の治療薬)を使う場合などは、眼科で定期的に眼圧測定をしてもらうのが望ましいです。


皮膚の病変

皮膚を治したくて使っているのに、皮膚の副作用が出ることもあります。にきびができるとか、赤くなるとか、逆に色素が抜けるとか、毛が生えてくるとか。こうした異常は徐々に塗るのをやめていくと改善します。(いきなりやめると元の病変が再燃しやすいので注意)

 

また、ステロイド軟膏を塗ると黒ずんでくる、というのは誤解で、湿疹が強い場合、その治癒過程で色素沈着(黒ずんでくること)があります。これは湿疹そのものの症状の一つで、時間とともにやがて治ります。ステロイドを塗ったせいで黒ずんだのではなく、ステロイドを塗って湿疹が治る過程で黒ずんだのです。ステロイド非含有の軟膏でも高度な湿疹が治癒してこれば黒ずみが出ることはあります。

 

 

こんな感じで、副作用は挙げていくと確かにいろいろありますが、それを上回るだけの効果が期待できるので、注意は必要ながら、頑なに避けるべきものではないでしょう。学会などの医療者向けの講演なんかでも、いかにして患者さんに「ステロイド怖い」のイメージを払拭してもらうか、というのは毎度課題として語られます。

 

なお、副作用が心配だからと、うすーく塗ったり、赤いとこだけチョンチョン塗ったり、他のものと混ぜて塗ったりするのはおすすめしません。中途半端な効果しか得られず、結果としてステロイドを使う期間や量が増えてしまうからです。

 

ステロイド軟膏による皮膚治療は、「ガッと治して、正しく減らし、最終的に保湿のみでツルツル!」が目標です。

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