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おなかのなかで赤ちゃんはどうやって息をしているの?

[2023.11.24]

パパママは我が子が生まれてきた瞬間のことを覚えているでしょうか。
小さいながらおぎゃあと泣いて、生命の神秘と言葉にかえがたい歓びに心から感動したのではないでしょうか。

 

さてこの赤ちゃんを水に沈めるとどうなるでしょう?(え)
答えは、あっという間に溺れ死にます。
良い子はマネしちゃいけませんよ。

 

でも不思議じゃないですか? さっきまでお母さんのお腹の中にいた頃は羊水という水の中に入っていたのに、どうして溺れないのでしょうか。

 

「そんなん、へその緒から酸素を貰ってるからに決まってるじゃん!」という声が聞こえてきそうです。

 

ご存じの通り、赤ちゃんはおなかの中では臍帯を通じてお母さんから酸素や栄養を貰っています。

ではどのようにして酸素の受け渡しが行われているのでしょうか。

 

赤ちゃんの血管は臍から出ているへその緒(臍帯)を通って胎盤につながっています。
胎盤は子宮にくっついており、お母さんの血管もたくさんつながっています。つまり胎盤という組織は、赤ちゃんの血管とお母さんの血管が張り巡らされ絡み合っている臓器なんですね。ただし、血管そのものがつながっているわけではなく、したがって血液を共有しているわけではありません。絡み合った血管の間で物質のやりとりが行われているのです。

 

血液中で酸素を運ぶ役目を果たすのは赤血球です。
赤ちゃんは赤血球はお母さんの赤血球がもっている酸素をもらわないといけないわけですが、同じ赤血球では酸素の移動が起こりません。赤ちゃんは酸素を奪い取るべく、お母さんのよりもより獰猛な(酸素とくっつきやすい)赤血球をもっています。これが胎児赤血球です。(前回もさらっと触れた、生まれてくると要らなくなって黄疸の原因になる赤血球ですね。)

 

赤ちゃんにとってはこのしくみが命綱です。生後のように苦しければ深呼吸をしてたくさん酸素を取り込んだりはできません。
妊婦さんやその周りの人がタバコを吸ったり、妊婦さんに無理させることは、胎盤の血管を収縮させ、酸素供給は減少するので、文字通り赤ちゃんの首を絞めることになります。

 

タバコをやめないパパや、妊婦さんに座席をゆずらない愚か者は、目の前にいる赤ちゃんの首を絞めていることを自覚すべきです。実際自分がその手で赤ちゃんの首を絞めている情景を想像してごらんなさい! 少しは自粛できるでしょうに!

 

話が逸れました。

 

で、いよいよ生まれてきた赤ちゃんは、この命綱の胎盤から切り離され、自分の力で呼吸を始めます。この記念すべき第一回目の呼吸が「産声」です。医学的には「第一呼吸」と言います。(そのまんま)

 

第一呼吸で肺の中にある水のほとんどが一気に吸収され、肺が空気で満たされます。そのパワーはすさまじく通常の呼吸の5倍以上の陰圧がかかると言われています。ベジータ戦の界王拳(4倍)を凌ぎます。
一回膨らんだ肺を動かすのはそんなに力が要らないので、その後は通常の呼吸でも酸素を取り込むことができるようになります。

 

生まれてから呼吸が苦しい「新生児一過性多呼吸」

そんなすごいパワーなので、全赤ちゃんが同じようにできるとは限りません。中には肺の中の水がうまく吸収しきれず、残ってしまうことがあります。肺に水が残っていれば当然苦しいので、呼吸障害となります。

 

これが生まれたての赤ちゃんで最も多い「新生児一過性多呼吸」というやつです。「生まれた後ちょっと呼吸が苦しくてNICUに数日入院して酸素マスクつけてました」という子の多くがこれです。

 

生まれる前から苦しい「常位胎盤早期剝離」

通常は、赤ちゃんが生まれてきた「後で」胎盤が子宮から切り離されるのですが、この順番が逆になると一大事です。まだ赤ちゃんがおなかの中にいる状態で胎盤が「先に」切り離されてしまうと、赤ちゃんは酸素の供給源を失います。まさに冒頭の「水に沈められた状態」になります。これが「常位胎盤早期剝離」です。超ヤバいです。

 

常位胎盤早期剝離と診断された場合、一秒でも早く赤ちゃんを空気中に出してあげる必要があるので、すさまじいスピードで手術が行われます。僕が勤務していた時に経験した症例では、診断から赤ちゃん娩出まで13分でした。

 

ママからすれば、突然血相変えた主治医から簡単な説明だけで強制的にオペ室に運ばれ、一瞬で麻酔をかけられ、気が付けばおなかの中から赤ちゃんがいなくなっているという、衝撃的な体験ですが、何が何でも赤ちゃんを助けたいという一心でのことです。そういうこともあるんだなーと頭の片隅に置いておいてください。

 

常位胎盤早期剝離はどんな施設でも経験しうることなので、愛育病院でも生まれてきた赤ちゃんを助ける技術だけは総合周産期センターに匹敵するレベルでありたいと、日々トレーニングを積んでいます。自分が関わる以上、助けられる命は絶対に助けたい。

 

 

私たちが当たり前にしている「息」ひとつとっても、複雑な仕組み、生まれる際に越えねばならない試練があります。
赤ちゃんがおなかの中で生きるしくみ、そして生まれてきて外の世界に適応するための変化は、本当にダイナミックで、生命の偉大さを感じます。
また機会があれば、他の機能についてもお話したいと思います。

 

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