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かぜに効かない「かぜ薬」

[2023.08.18]

愛育こどもクリニックでは「かぜ」と診断した場合、あまり積極的に薬を出しません。

有用であるというエビデンスがあまりにも乏しいからです。

 

一方で、「飲まない方が良い」というほど有害なエビデンスも乏しいです。

 

そのため、「お薬飲まなくてもいいと思いますがご希望があれば出しますけど何か欲しいですか、、、?」と微妙な聞き方になってしまうことがしばしばあります。

結論としては「自分には効いてると思う人、効いた経験がある人」「お薬を使っている方が気持ち的に安心という人」は使えばいいし、「科学的なエビデンスがないなら使わなくてもいいやと思う人」「味が嫌いで飲むのをすごく嫌がる人」には使わなくてよいというのが当院の方針です。

 

で、今回はかぜでよく処方されるお薬のエビデンスについて書いてみたいと思います。
(この辺りは小児科クリニックとしてはとても大事な内容だと思うので、いずれもうちょっと正確な内容を参考文献も明示した状態でHPのコンテンツとして載せたいと思います。ここではお話程度に軽く読んでいただければと思います。)

 

咳に効かない「咳止め薬」

咳止めとして処方される「アスベリン」は鎮咳薬としては日本でのみ販売されている薬です。添付文書的には「延髄の咳中枢を抑制し咳の感受性を低下させることにより鎮咳作用を示す。」とめっちゃ効きそうな文言が書かれていますが、これらは犬、うさぎ、鳩の研究で、人間を対象とした研究ではありません。

じゃあ人ではどうかというと、2019年に国内から発表された研究では、去痰薬のみ vs 去痰薬+アスベリンでは風邪による咳はむしろ去痰薬だけの方が改善する傾向にあった、という残念な結果です。海外ではそもそも販売されていないので、有効性を検討した論文は皆無です。

 

もう一つの咳止め「メジコン」はどうでしょう。俗に「強い咳止め」と言われているメジコンですが、こちらは2018年のコクランレビューで「無治療」よりは咳を改善するが、「はちみつ」よりは劣るという結果です。別の文献ではメジコンは咳改善効果は「プラセボ(偽薬)」と同等で、プラセボより不眠を増加する、という結果です。飲まないよりは良いが、それは咳止めの効果ではなく、何かを飲んでいる、という安心感によるものである、と考えられます。

 

そんな感じで咳止めが咳を止めるという文献、全然見つけられません。

 

鼻に効かない「鼻の薬」

鼻の薬ということで抗ヒスタミン薬が処方されることもよくありますね。「レボセチリジン」、「フェキソフェナジン」、「ニポラジン」などです。しかし、抗ヒスタミン薬はアレルギー性鼻炎の薬であり、かぜには効かないことは小児科研修医レベルの教科書にも書いてあります。中枢神経への作用で、集中力低下や熱性けいれんを誘発する可能性が示唆されています。

 

もともと鼻炎があって、それがかぜで増強するような場合は、鼻炎に対してのみ効くかも、という薬です。普段鼻炎症状の無い人が風邪で鼻がつらいときに使用するのはデメリットが勝ります。(なのに本当にたくさん処方されているし、多くの市販薬にも含まれている。七不思議レベルの案件です。)

 

のどに効かない「のどの薬」

のどの痛みや腫れによく処方されるのが「トラネキサム酸」。咳止めと同じく、風邪に対して使うのは日本特有のようで、海外の文献はほとんどありません。日本からは、1970年頃に医学雑誌の記事として研究報告があります。一応RCTというきちんとした研究っぽいですが、開示すべき情報が不足しており、これだけで有効とは到底言えません。副作用として吐き気や下痢など消化器症状も報告されているため、リスクをしょってまで使うメリットがあるかは疑問な薬です。

 

全然病態と違う薬たち

かぜはウイルス感染なのに「抗菌薬」、気管支狭窄がないのに「気管支拡張薬(飲み薬以外にもテープとか吸入とか)」、鼓膜が破れていない中耳炎に対して「点耳薬」などは、そもそも理論的に効くはずがありません。さすがにこれらは希望があっても処方しないことが多いです。

 

かろうじてエビデンスがちょろっとあるのが、2歳以上に対する去痰薬「カルボシステイン」や「アンブロキソール」、1歳以上に対する「ハチミツ」、6ヵ月以上に対する「ヴェポラップ」ですが、すごく効くというわけではないので、お薬が嫌いな子に頑張って使うほどのものではありません。

 

 

自分がクリニックで働くようになって、世の小児科クリニックでは上記のような処方が濫用されていることに驚きました。(二次病院以上では絶対こんなに出さない!)

当初は自分も右に倣えでいろいろ処方していましたが、エビデンスに基づいた医療をうたっている以上は、きちんとエビデンスベースで治療計画を提案できるような医者でありたいです。

 

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