頭の形外来:ヘルメット療法のエビデンス
当院としての推奨
首がすわった時点で、中等度以上のゆがみがある場合は、ヘルメット療法をおすすめしています。
ただし、そのメリット・デメリットの比較は、主観的な部分が大きいため、人によってさまざまな考えがありえます。
実際に治療するかどうかは、以下の文をよく読んで、ご家族で十分に話し合ったうえで決めてください。
ヘルメット療法(あるいはヘルメット治療)の原理
誤解されがちですが、ヘルメット療法は「頭のでっぱった部分に圧をかけて(おしつぶして)いい形にする」というものではありません。
でっぱったところはぴったり覆って、逆にへこんだところには隙間を作るようにヘルメットを設計することで、「へこんでいる部分の成長を促す」ものです。
赤ちゃんの脳は、産道を通るために小さめの状態で生まれてきます。そして生まれた後でワーッと急速に大きくなり、頭の大きさもどんどん拡大していきます。頭蓋骨の成長は脳の成長にとても追いつかないため、はじめのうちはいくつかのパーツ骨に分かれて浮いているような状態です。
そのため、ずっと同じところを床につけて寝ていると、そっち側には育たず反対側ばかりが育ってゆがみが出てきます。これが斜頭症になるメカニズムです。
ヘルメット療法はこのメカニズムを逆に利用して、育ってほしい方向にだけ隙間を作っておきます。すると、だんだんと望ましい形に近づいていくというわけです。
つまり、ヘルメット療法は頭の成長をいい方向に誘導する治療ということです。圧をかけたり締め付けているわけではないので、脳の成長を妨害するようなことはありませんし、赤ちゃんは痛いとか窮屈とかはあまり感じないはずです。
ヘルメット療法の効果
ヘルメット療法は「頭の自然な成長を望ましい方向に誘導する」治療なので、頭がぐんぐん成長している最中に始める必要があります。成長が落ち着いてから開始してもあまり効果は期待できません。
具体的には生後6か月以内に治療を開始すると、治療していない場合と比べて有意に頭の形が改善することが、国内外から報告されています。6か月を過ぎると、遅くなればなるほど、治療効果が期待できなくなります。
海外では生後18か月までは治療可能という報告もありますが、当院では6か月を過ぎたお子さんには原則あまりおすすめしていません。
適切な時期に開始すれば短期的には十分効果が期待できるヘルメット療法ですが、では長期的な効果についてのエビデンスは? というと、実はまだ不十分というのが現状です。
どういうことかというと、ヘルメットをつけて数か月後の比較だと、ヘルメットありの方が無しに比べて頭の歪みは明らかに改善はする。けれども、数年後に比較すると、そこまでの差はないかもしれない。ということです。ヘルメットをつけなくても、斜頭症は少しずつ改善が期待できるので、何年も先を考えると、そこまで気にならないレベルまで改善する可能性もあるよね、ってことです。ただし「長期的な効果が示されていない」というのは「長期的には無意味である」と同じではないということには注意が必要です。
個人でみれば使った方が良くなる可能性は十分あり、何年か先に、「自然経過では思ったほど改善しなかった、やっぱりヘルメットやっとけばよかった!!」と思ってもその時には治療できないため、悩ましいところです。
ヘルメット療法のデメリット
大きく分けて、以下の三つがあります。
①皮膚トラブル
②費用がかかる
③思った結果にならない可能性がある
①皮膚トラブル
まず合併症として、ムレによるあせもが頻発します。外来の度にチェックして、必要に応じて、外用薬を使いながらなんとかしのぎます。
また、部分的に圧迫されるような場所がある場合、皮膚がえぐれて潰瘍(かいよう)ができることがあります。いわゆる褥瘡(じょくそう)とおなじ病態です。これがあると、治療を断念せざるを得ない場合があるので、細心の注意を払います。(通常はそのような場所がないように設計されています)
ヘルメット治療はお風呂の時以外ほぼ24時間の装着が推奨されています。頭の成長は24時間進行していますので、外している時間が増えれば、でっぱっているところも成長してきてしまうからです。もともとヘルメットはでっぱっているところはぴったりになるように設計されているので、でっぱったところがさらに成長してしまうときつくなってきて、圧がかかりやすくなってしまいます。本人が嫌がるなどで外しがちになってしまうと、治療効果が得られにくくなるばかりか、潰瘍形成のリスクが上がってしまいます。
②費用がかかる
これは言わずもがなですね。自費診療かつ最新技術を駆使した完全オーダーメイド設計なので、高いです。何かと物入りな時期にこの出費を許容できるかどうかは問題でしょう。
ちなみに、これでも従来のものよりかなり安くなりました。ちょっと前まで60万円くらいはしてましたからね。3Dカメラ技術やweb上でのデータのやり取りが進化し、義肢装具士など特別な資格をもった人による調整が不要になったため、かなり人件費が削減されたようです。
今のところ、ヘルメットの種類によって治療効果が変わる、というエビデンスはなく、当院で採用しているベビーバンド3に関しては、施設の規模や経験症例数によって治療効果が変わることはないというデータがあるようです。経験豊かな専門家と二人三脚でやっていきたいという方は別ですが、シンプルに治療効果だけを求める場合、特に施設差はないようですので、同じベビーバンド3で比較するなら設定価格の安い施設で治療する、という選び方もありだと思います。
③思った結果にならない可能性がある
ヘルメット療法はあくまで斜頭症・短頭症の治療であって、頭の形を好きなようにデザインできる治療というわけではありません。左右差(あるいは前後左右径の差)を是正することを治療目標としていますので、たとえばおでこのでっぱりをなくしたいとか、小顔にしたいとかの要望に応えられるわけではありません。
さらに、斜頭自体についても、改善はするけれど、全員が正常域まで達するというわけではなく、様々な要因により、重症が軽症になった、くらいの効果で留まることもあります。
値段が高いだけに過度に期待しがちですが、誰でも完璧に美しい頭にしてくれる夢の治療というわけではないので、注意が必要です。
ヘルメット療法のデメリット「ではない」こと
ヘルメットしていると寝にくいんじゃないか、と思われがちですが、ヘルメット装着により睡眠パターンを乱すことはないと言われています。
また、将来的に続く長期的な合併症の報告は今のところありません。
最終的に決定するのは両親の価値観
いかがでしょうか。ヘルメット治療のメリット、デメリットを並べてみると、そこにどの程度の価値を置くかは、人それぞれの価値観によるということが分かると思います。
外来では「やったほうがいいですか?」と聞かれることがとても多いですが、当院から言えるのは「中等度以上の斜頭症には効果が期待できるので、おすすめです」ということまでです。
・自然な経過である程度改善するならそれでいい
・仮に改善しなくても気にしない
・少しでも良くしてあげたい
・さすがに高すぎて無理
・最終的にどんな形になるとしても、親としてやれることはやってあげたい
などなど、親の数だけ意見があると思います。だから、斜頭症・短頭症だからといって全員が全員ヘルメットやるべきだー! という気はまったくありません。ただ、治療してあげたいという親御さんには最後まで寄り添って、責任をもって関わっていきたい、という想いから、当院ではヘルメット治療を行っています。
ヘルメット治療での出会いを通じて、それ以外の育児や健康の悩みも相談できる、そんな外来になればいいなと思っています。
このほかにも治療について個別に相談したいことがある方は、ぜひ一度外来へお越しくださいね。