解熱薬は座薬の方が効くのか?
処方薬の剤型が複数ある場合(シロップ、粉、座薬、錠剤など)、僕はなるべく「どれがいいですか?」と聞くようにしています。経験上、どの剤型が一番使いやすいかは、親と子の好みによるところが大きいからです。
よく質問されるのが「どれが一番効きますか?」ということです。「どれも同じアセトアミノフェンという物質なので、どれも効き目は同じですよ。」とざっくりお答えすることが多いのですが、さて本当に同じなのでしょうか?
今日はそこのところを少し掘り下げてみたいと思います。
なぜだかルーツは知らないけれど、「座薬がよく効く」というイメージを持っている方が多いような気がします。僕も医師になるまでは漠然とそんなイメージでした。幼少期の記憶が関係しているのかな?
初回通過効果
「座薬がよく効く」というイメージの理由はいろいろ考えられますが、中でも科学的な説明がこの「初回通過効果」です。
いきなり専門用語ですが、どんなものか簡単に説明してみたいと思います。口から飲む薬は、吸収されると原則まず肝臓を通ります。肝臓はお酒を分解することで有名ですが、お酒以外にも様々な物質を分解したり無毒化したりする浄水器みたいな役割の臓器です。薬も肝臓を通ることで様々な変化を受け、薬効が減弱したりします。口から飲んで吸収された薬は、全身をめぐって効果を発揮する前に、まずいくらかが肝臓で無効化されてしまうため、飲んだ薬の量がいくらか目減りしてしまうことになります。これを「初回通過効果」と言います。(ちなみに飲み薬のアセトアミノフェンはこの初回通過効果で約10%が無効化されてしまいます。)
座薬の場合は直腸から吸収され、肝臓を通らず全身をめぐるため初回通過効果を受けません。つまり、理論上、同じ量の薬を使った場合、体内で作用する薬の量は口から飲むより座薬の方が多いということになります。
なんだ、やっぱり座薬の方が効くんじゃないか。
と思いたくなる話です。
血中濃度を比較してみる
理論上は座薬の方が効きそうですが、実際にはどうなんでしょうか。
薬の効き目を見る指標のひとつとして、「血中濃度」があります。薬は血液中に溶け込んで全身に効いていきますので、血液中の薬の量が多いほど、効果も高いと考えられます。
ここでアセトアミノフェンのシロップ、ドライシロップ(粉)、座薬の添付文書に記載されている血中濃度の項目を見てみると、実は「最大の血中濃度」や「血中濃度が上がるまでの時間」については、剤型の違いによる差はありません。(厳密には、それぞれの剤型で異なる設定で研究をした結果なので、単純比較はできないのですが)
こんな風に、理論上は明らかに違いがありそうでも、実際やってみるとそうでもない、ということが医療ではけっこうあります。
飲み薬と座薬で明らかな差が出るようなら、そもそも推奨される投与量が異なるはずです。(吐き気止めなんかは飲み薬と座薬で投与量が異なります)
効くかどうかは投与量による
結局、解熱薬の効果は剤型というよりは投与量が重要になってきます。適切な量を使わないと、十分な効果は得られません。想像するに、「座薬の方が効いた!」という実感のある方は、飲み薬を飲みこぼしてしまっていたり、体重のわりに処方量が少なかったりしたのかもしれません。感染症のフェーズによっても効き目が違う感じがするかもしれません(熱が上がりつつある最中に解熱薬を使っても熱は下がらないことが多い)
そんなわけで、剤型を選択する際は、純粋に「使いやすさ」で決めていただければ良いかと思います。
ちなみに、「座薬は使ったことがないのでなんだかこわい」という方はぜひお申し出ください。使い方をご説明いたします。(やってみると簡単です)
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