新生児蘇生法NCPR Aコース開催しました
愛育こどもクリニックのお隣には、ご存じ愛育病院という産科病院があります。
私は小児科外来のかたわら、愛育病院で赤ちゃんの診療も担当しています。
(ごくたまに急に外来が止まることがありますが、これはものすごく具合の悪い赤ちゃんの対応にいっているからです。どうかお許しください)
さて出産というと、幸せでいっぱい! というイメージですが、実は母子にとってはとても危険なことでもあります。たとえば、こんなエピソード、、、
臨月の妊婦さん。もともと健康で病気もなく、妊婦健診もちゃんとうけていて、いよいよ予定日が近づいてきた。
ある日、下腹部の痛みで眼が覚める、陣痛かな、と思っていると、出血が、、、
嫌な予感がして急いで病院を受診すると、診察した医師は緊迫した面持ちで「今すぐ帝王切開しないと赤ちゃんが助かりません!!」と。
説明もそこそこにストレッチャーで手術室へ直行、あっという間に全身麻酔をかけられ、覚えているのはそこまで、、、
目が覚めると、病室のベッドで寝ていて、下腹部はなんだかうずくような痛み、大きくなっていたお腹は少し小さくなっている。
何が何だか分からず混乱していると、先ほどの産科医とは別の医者が、赤ちゃんを乗せたコットを病室に運び入れる。泣き声は聞こえない。
「残念ですが、赤ちゃんは助かりませんでした、、、」
コットには、自分によく似た顔立ちの赤ちゃんが寝ている、しかし顔色は土気色でピクリとも動かない。その姿をみてようやく何が起きたか理解するとともに、自分も息が止まりそうになる、、、。
こういうことが、現実に起こるのが出産です。
自分がNICUにいたころは似たような症例を何度か担当しました。
本当に、天国から地獄としか言いようのない、つらい経験です。
お腹の中の赤ちゃんは羊水という水の中にいます。生まれて外の世界に出てきたとき、赤ちゃんは水で満たされた肺に自力で空気を送り込み、呼吸を始めなければなりません。そのために、赤ちゃんは力の限り泣きます。これが産声です。
しかし、生まれる間際に何らかの理由で苦しい時間のあった赤ちゃんは、そのパワーが出せず、うまく泣けません。そのままだと呼吸ができず、死んでしまうので、医療者はその手助けをします。これが、新生児の「蘇生」です。
この「蘇生」のやり方を、世界中からエビデンスを集め、最も理想的と考えられる方法まで高めたものが「新生児蘇生法(NCPR)」です。
日本では2007年に普及事業がスタートして、今では全国の周産期医療従事者がNCPRを学んでいます。
そんなわけで先日、休診日を利用して愛育病院のスタッフを対象にして、NCPRのAコース(「専門」コース)を開催しました。
講義+実技の6時間に及ぶ長丁場ですが、皆さん真剣に取り組まれていました。
NCPRの講習会では、赤ちゃんの人形を使って、実際起こりうる状況のシミュレーションをします。生まれたてなのになぜ服を着ているんだ!って言わないでください。これでも優秀な機能を備えた子なんです。
「うまれましたが泣きません!」「まず何をしますか!」「息してません!」「ぐったりです!」「心拍低下!」「どうしますか?!」てな具合で、けっこう緊張感あります。
生まれてきた赤ちゃんが、この世界を知る前にその命を終えてしまうこと。それを少しでも減らしたいという思いは、きっと皆同じです。
愛育病院では、志だけでなく、お産に立ち会う可能性のある全スタッフが自信をもって新生児の蘇生を行う技術をもてるようにこれからも日々トレーニングをつんでいきます。