男性に対するHPVワクチンってどうなの?
HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)のキャッチアップ接種の期限が来年3月末に迫っています。現在17~27歳の方で、接種していないかも、という方はお急ぎください。(詳しくは大和市のHPをご覧ください。またはクリニックまでお電話でご相談を。)
で、今回はそんなHPVワクチンの男性への接種についての話です。
はじめに結論をかくと、、
・女性ほど抜群な効果ではないけれど、男性でも中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマなどの予防になります。
・男性の接種者が増えることで、女性のリスクも軽減され、大切な彼女や将来の奥さんを守ることにつながります。
・任意接種なのでお金がかかります。(当院だと15,000円×3回、決して安くはない)
・接種時期は9~14歳くらい(性交渉の前、あるいは性について繊細になる前)
・日本においては、費用さえ許容できる家庭であれば、接種すべきだと思います。
HPVワクチンのおさらい
HPVとは、ヒトパピローマウイルスというウイルスの名前です。なんとこいつは、人に感染して「がん」を発症させるという珍しいウイルスです。どんながんを起こすかというと、有名な子宮頸がんの他に、膣がん、陰茎がん、外陰部がん、肛門がん、中咽頭がんの全6種類です。また、がんじゃないけど尖圭コンジローマというイボのような症状を起こすこともあります。
ウイルス感染症なので、ワクチンが効くでしょってことで、世界では2007年頃からHPVワクチンが登場しました。日本でも2013年に定期接種として導入されましたが、同年、接種後の重篤な症状の訴えが相次ぎ、困った政府は「定期接種(=全国民が積極的に受けられるように政府が支援する)」でありながら「積極的勧奨の差し控え(=政府は積極的にはおすすめしません)」という矛盾した方針を打ち立てました。
そんなフワッとした状況の中、HPVワクチンは、重篤な副反応があるぞ! と主張する人々(医師含む)が騒ぎ立てたこともあり、科学的根拠もないまま「なんか怖い」というイメージが一般に広く浸透してしまった不遇のワクチンなのです。
そんなHPVワクチンですが、約10年間で蓄積されたエビデンスに基づき、(世間で騒がれるような)重篤な副反応はない、という結論に至り、2022年度から「積極的勧奨の差し控え」が終了し、ようやくほかの定期接種ワクチンと同じように接種できるようになりました。その間、怖いイメージのためワクチンを接種できないまま定期接種期間を終えてしまった女性に対する救済措置として、冒頭のキャッチアップ接種が実施されているってわけです。
男性に対する有効性は?
前置きが長くなりましたが、さてこの子宮頸がんワクチンとして有名なHPVワクチン。当然女性を中心にすすめられてきたわけですが、男性に対してはどうでしょうか?
前述のとおりHPVは陰茎がん、肛門がん、中咽頭がん、尖圭コンジローマにも関連し、これらは男性にも起こりうるので、男性もワクチン接種でこれらのリスクを下げられるのでは? というコンセプトです。
国立がん研究センターが出している「子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス (HPV) 関連がんの予防ファクトシート 2023」によると、口、肛門、性器などにHPVが持続感染するのを防ぐ効果は約80%、肛門上皮内腫瘍中等度異形成(がんのもとみたいなやつ)に対する有効率が約60%とまずまずな効果です。データのばらつきが大きめなので、これらはだいたいの数字ですが。(数字は勝手に咀嚼して掲載しています。正確な数値は元文献を参照してください)
また海外の報告で、女性にワクチンを導入することで、男性の尖圭コンジローマが減少したというデータがあります。HPVはおもに性交渉で広がっていきますので、ワクチン接種で女性の感染率が落ちることで男性も感染しにくくなったと思われます。逆を言えば、男性がワクチンを接種して感染予防することで、その後関係をもつ女性への感染をも予防できる可能性があるということです。
個人的には、これがとても重要な効果だと思います。HPVワクチンは自分だけでなく、大切な彼女や将来の奥さんを守ることができる素敵なワクチンというわけです。男には子宮がないから無関係、ではないのです。
国内外での推奨は?
アメリカ小児科学会では、男女ともに定期的なHPVワクチン接種を推奨しています。9~12歳と早めの接種を推奨していることが特徴的です。なぜ早めかというと、性感染するウイルスのワクチンのため思春期の多感な時期を迎えてしまうとどうしてもそれに絡めた話が出てきてしまうため、できればその前に接種しましょうという考えのようです。十分な性教育を行える教育体制が整っていればこういう配慮は不要なのでしょうが。
WHOでは、9~14歳の女性を「一次対象集団」として、最優先で接種率を上げるべきとしています。男性は高齢者などとともに「二次対象集団」とされており、一次対象集団のワクチン接種やがん検診勧奨のためのリソースを減らさないのであれば推奨、と言っています。
日本では、前述のとおりようやく女性へのワクチンが進み始めたところなので、まだまだ男性への接種に対する認知度は低いと思います。それでも自治体によってはすでに公費助成を始めているところもあるようです。ちなみにわれらが大和市はまだありません。行政には将来を担う若者たちの健康への投資をぜひとも惜しみなくすすめてほしいところです。
というわけで、医学・健康的な側面では、すでにメリットが上回ることが示されている男性へのHPVワクチン。社会的なリソースや、家計が許すのであれば、ぜひ接種することをおすすめします!
まとめ
・女性ほど抜群な効果ではないけれど、男性でも中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマなどの予防になります。
・男性の接種者が増えることで、女性のリスクも軽減され、大切な彼女や将来の奥さんを守ることにつながります。
・任意接種なのでお金がかかります。(当院だと15,000円×3回、決して安くはない)
・接種時期は9~14歳くらい(性交渉の前、あるいは性について繊細になる前)
・日本においては、費用さえ許容できる家庭であれば、接種すべきだと思います。
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