日本脳炎ワクチンは生後6か月から接種すべきか
前回の記事の続きです。
日本脳炎ワクチンは3歳になってから接種すべきか、それとも生後6か月から早めに接種すべきか、という話です。
臨床判断をするとき、僕らはリスク(欠点)とベネフィット(利点)をなるべく多角的に検証して、その是非を考えます。ワクチンに限らず、抗原検査やかぜ薬の処方から、かける言葉選びについても、もたらされるリスクとベネフィットを天秤にかけ、最善を探ります。(何事にもリスクはつきもので、「ゼロリスク」の選択肢は通常存在しません。)
今回の場合、「3歳未満での接種」を選択する場合に考えられるリスク・ベネフィットを考えます。
リスクは、、、
①3歳未満(0.25mL)は3歳以上(0.5mL)よりも接種量が少ないが、それで十分な抗体がつくのか?
②Ⅰ期を早く接種することで、Ⅱ期(9歳~)までちゃんと抗体が維持されるのか?
③乳児では副反応の頻度や重症度が上がるのではないか?
④ほかの乳幼児ワクチンがおろそかにならないか?
ベネフィットは、、、
⑤早く打てばそれだけ早くから守られる?
⑥少量接種の方が痛くないのでは?
⑦物心つく前に接種した方がトラウマにならないのでは?
と言ったところでしょうか。
このうち科学的に検証できそうなのは①②③⑤あたりですので、そこに絞ってお話を進めていきます。
3歳未満の接種で十分な抗体がつくのか
①⑤は表裏の関係で同じことを言っています。
これについては前回もご紹介した小児科学会の推奨等でも引用されている日本の研究があります。
この研究では、現在日本で使われている不活化ワクチンと、海外で使われている生ワクチンの効果に差がないことを示したものです。その副産物的な結果として、3歳未満に対する接種(0.25mL×3回)と3歳以上に対する接種(0.5mL×3回)で抗体陽性率に差がないことも示されています。
つまり、3歳未満の接種でも十分抗体がつき、早くから守られるということになります。
なお、③副作用に関しても、有意な差はないと報告されています。
Ⅰ期を早く接種することで、Ⅱ期(9歳~)までちゃんと抗体が維持されるのか?
続いて②についてです。
タイの1-3歳の小児132名を対象とした研究で、Ⅰ期の3回接種後5年間の抗体陽性率を調べたものです。この研究では、5年後の時点で感染防御のために十分な抗体を維持していた人は全体の3分の2くらいというデータが出ています。
ただしこの研究ではJEVACという不活化ワクチンを使用していますので、日本で承認されているジェービックVとエンセバックにそのまま適応されるかどうかは分かりません。
ここから言えるのは、
Ⅰ期を早く接種することで、Ⅱ期(9歳~)までちゃんと抗体が維持されないこともあるかもしれない。ということです。
小難しい話を2週に渡って書いてきましたが、6ヵ月からの接種と3歳からの接種で、どちらが明確に有利とは言えないのが現状です。
日本脳炎の発生数の少なさを踏まえて考えると、「接種するのは重要だが、接種する時期による差は比較的小さいため、いつから接種すべきかについてそこまで頭を悩ませる必要はない」というのが現時点での当院の見解です。
大和界隈にお住いの方は、とりあえずは3歳からの接種を忘れず受ければ良いかと思います。