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かぜにカルボシステインは効くのか?

[2025.10.08]

かぜ薬として非常に多く処方されるカルボシステイン(ムコダイン)、あまりにも頻繁に処方されるので、かぜを引いたら当然飲むものだと思われがちですが、さて実際はどうなのでしょうか。

 

歴史

カルボシステインは日本では1981年に発売されました。もともとは慢性気管支炎や慢性副鼻腔炎などの「慢性」気道疾患に対して使用される薬です。添付文書にもそのように記載されています。

 

ところが「痰の性状を変化させることにより、粘性を下げて、体外に排出しやすくする」という効能から、かぜのような急性期疾患の痰がらみにも使われるようになり、その流行は世界中に広がりました。だっていかにも「効きそう」な効能だもの。

 

医師は処方する際に患者さんへの説明を分かりやすくするために「かぜ薬」「痰切り」「痰や鼻水を出しやすくする薬」「咳や鼻の薬」と表現するため、いつしか世間からは「そう言う効果のある薬」と認識され(本当にその効果があるのかも分からないまま)かぜの時の処方薬として不動の地位を築いたのです。

 

科学的な根拠は?

もともと慢性疾患に対する薬なので、かぜなどの急性疾患に対するエビデンスはほとんどありませんでした。そこで、研究者たちがこぞってカルボシステインの臨床研究を行うわけですが、その結果はイマイチ芳しくないものばかりでした。

 

例えば2013年のコクランレビューでは10人に使用すると1人は1週間以内に咳が改善するが9人は特に効果がない、とか、イスラエルで行われた研究ではハチミツの方が咳止め効果が高かった、とか。

 

また本来1日3回の薬なので、保育園などでお昼に飲ませられないとなるとさらに効果が期待できなくなってしまいます。ほとんどの研究は1日3回投与を前提として設計されているため、1日2回使用の場合のエビデンスは皆無といってもいいレベルです。

 

デメリットはあるか?

副作用としては軽度の吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状が報告されています。これくらいならまだ許容範囲ですが、フランスでは、乳児への使用で逆に分泌物が増えることや、6歳未満の使用で呼吸状態が悪化して入院が長引いたり死亡例もいたことなどが報告されました。さすがにこれは看過できません。

 

ただしこれら重篤な副作用についてもエビデンスは乏しいため、確実にカルボシステインのせいだとまでは言えないです。副作用についてもエビデンスがはっきりしていない薬なんです。(だから今も世界中で使われています)

 

とはいえ、そもそも効果が乏しいのだから、安全性に懸念のあるものを使用すべきではないとして、2010年にフランス、イタリアでは2歳未満でのカルボシステインの適応は撤回され、禁忌とされました。他にも添付文書上禁忌となっている国はいくつもあります。

 

 

カルボシステインは、禁忌とされている国があったり、ガンガン使っている国があったり、なかなか世界で方針が統一されない薬というわけです。

そういう経緯のある薬ですので、僕自身はあまりホイホイ処方するのは好きではありません。

 

限定的ながら効果は報告されているわけですので、実際に飲んで効いたという実感がある人、薬がある方が安心できる人は使っても良いとは思います。逆に、あまり効果を感じたことがないとか、飲むのを嫌がって毎回服薬が大変とかであれば、頑張って飲むほどのものではないと思います。

 

外来ではなかなかここまで詳しくお話しできないため「お薬効かないので自然経過を見守って悪化するならまた来てね」みたいな説明になってしまい、「愛育の先生は自然治癒力を信じている」とか「お薬を出してくれない」とか思われがちなのがつらいところですが、EBMを謳っているからには、この辺のことはなあなあにせずにきちんと向き合っていきたいところです。

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